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適応障害で異動を求められたら?人事が押さえる判断基準と実務の手順

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更新日: 2026.10.27
適応障害で異動を求められたら?人事が押さえる判断基準と実務の手順
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この記事を書いた人:ワーカーズドクターズ編集部

【監修】佐藤将人 ワーカーズドクターズ提携産業医、合同会社SUGAR代表医師、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)、臨床心理士、中小企業診断士、両立支援コーディネーター、健康経営アドバイザー、日本肝臓学会専門医、日本外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

【監修】佐藤将人 ワーカーズドクターズ提携産業医、合同会社SUGAR代表医師、日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)、臨床心理士、中小企業診断士、両立支援コーディネーター、健康経営アドバイザー、日本肝臓学会専門医、日本外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

「適応障害。配置転換が望ましい」。

こうした診断書を受け取っても、希望部署への異動が自動的に決まるわけではありません。かといって、必要な配慮を検討しないまま、今までどおり働かせてよいわけでもありません。

検索すれば、「診断書に従う義務はない」という答えはすぐに見つかります。しかし、答えが分かっても、人事が次に何をすればよいかは見えてきません。

人事が検討するのは、異動の可否だけではありません。本人の意向や業務の実情、医師の意見を踏まえ、何が負荷になり、どの条件なら働けるかを整理します。進め方は、次の3段階です。

  • 1. 生命の危険が切迫しているときは、配属の検討より安全確保と救急対応を優先
  • 2. 本人の意向、業務の実情、医学的な意見をそろえ、必要な配慮を検討
  • 3. 異動・業務調整・療養を比べて選び、実施後の見直しまで調整

本記事では、初動、異動以外の調整、復職時の原則と例外、医師への相談、部署への働きかけ、そして会社が外せない法的な点を順に整理します。

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診断書を受け取ったら、最初に何をする?

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最初に緊急性を確認し、必要な暫定措置を取ります。そのうえで、次の5点を順に確認します。

  • 1. どの入口からの相談で、いまはどの場面か
  • 2. 何が負荷になっているのか
  • 3. 異動先では、何が変わるのか
  • 4. 就業を続けられる状態か
  • 5. いつ誰が見直すのか

資料がそろうまで、配慮そのものを先延ばしにしないことが出発点です。

緊急性の確認は、異動の検討より先にする

生命の危険が切迫している場合は、異動の検討を止め、次の対応を取ってください。

  • ● 本人と対応社の安全を確保する
  • ● 本人を一人にしない
  • ● 119番で救急につなぐ

切迫している状態とは、たとえば自殺を実行しそうな様子がある、すでに自傷行為がある、といった状態です。

切迫しているか判断に迷う場合も、産業医の訪問日や社内の調整を待たずに、医療機関等へ相談します。本人に案内できる24時間の相談先は、次の2つです。

  • ● #いのちのSOS:0120-061-338
  • ● よりそいホットライン:0120-279-338(福島県からは0120-279-226)

切迫している場合は、電話がつながるのを待たず、救急対応を優先しましょう。

①どの入口からの相談で、いまはどの場面か

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※AI生成画像

異動の相談は、主に3つの入口から生じます。

どこから来た相談かで、会社の立ち位置と確認すべき点が変わります。

  • 1. 本人から診断書とともに希望が出た:現在の職場で何が負荷になっているか
  • 2. 異動した直後に不調が現れた:異動の前後で何が変わったか、発症の経緯
  • 3. 上司や配属先から相談が来た:現場の困りごとに加え、本人も異動を望んでいるか

2つ目は、見落とされやすい入口です。異動そのものが引き金になった可能性があるときは、復職先の検討でも、労災で業務による負荷を評価する際にも、発症の経緯が必要です。

3つ目では、本人の希望を必ず別に聴きます。上司が異動を必要と考えていても、本人は今の部署に残りたい場合があるためです。「配慮のため」という楷書の意図と本人の希望は、分けて確認してください。

あわせて、いまが就業を続けているか場面か、休職からの復職の場面かを確定させます。

復職の場面では、参照する原則が変わります。後述の「復職と同時に異動してもよい?」で扱う、厚生労働省の手引きの原則と例外から確認してください。以下の②~⑤は、就業を続けている社員を前提にしています。

②何が負荷になっているか

本人は「何がつらいか」に加えて、「いつ、どの業務で症状が出るか」「何が変われば続けられそうか」を確かめます。

あわせて、勤怠、業務量、責任、指揮命令系統、上司から見た変化も整理します。

適応障害では、治療と併せた環境調整も、回復に必要な要素とされています。ただし、部署を変えれば必ず回復するわけではありません。全社に共通する負荷がある場合も、異動先にも同じ負荷が残らないかを個別に確認します。

異動先では、何が変わるのか

異動先で何が代わるのかを、具体的に挙げられるかを確認します。現在の職場と比べる観点は、次のとおりです。

  • ● 関わる相手
  • ● 業務量と締切の性質
  • ● 責任の重さ
  • ● 指揮命令系統

異動先が決まらないまま異動を約束すると、受け入れ先を探す作業だけが残ります。本人は、役割が曖昧なまま置かれがちです。変わる中身を挙げられないなら、それは配置換えではなく先送りです。

④就業を続けられる状態か

勤怠や業務の記録で、次の点を確かめます。

  • ● 遅刻や欠勤の頻度
  • ● 納期への対応
  • ● ミスの発生

ただし、出勤できていることや、仕事をこなせていることだけを理由に、必要な配慮を否定しないでください。

就業の継続自体が難しい可能性がある場合は、配置の検討より先に、就業を続けられるかについて医師の意見を求めます。

⑤いつ、誰が見直すのか

措置の内容だけでなく、担当者と次回の確認時期を本人と共有します。

確認時期は、症状や医学的な見通しを踏まえて個別に決めます。見通しが立たない場合も、次に状態を確認する日だけを決めておきましょう。

具体的な決め方は、次の「異動できないとき、何を調整できる?」で扱います。

参考:厚生労働省「まもろうよ こころ」

参考:こころの耳/厚生労働省「適応障害:用語解説」

参考:厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」

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社員が適応障害に陥ってしまったら?職場の対応や復帰のサポートについて

異動できないとき、何を調整できる?

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部署を変えずに負荷を減らす方法も検討できます。異動か療養かの二択で考えず、現部署での調整と比べてください。

異動しないと判断した場合も、次の3点を本人に説明しましょう。

  • ● 代わりに講じる措置の内容
  • ● 措置を選んだ理由
  • ● 実施後の確認方法

負荷に応じた調整の例

負荷の種類ごとに、検討できる調整の例を挙げます。

確認する負荷 調整の例
業務の種類・量・責任 担当や業務量を見直し、負荷の大きい仕事を一定期間外す
勤務時間・残業・出張 勤務時間、残業、深夜業の回数、出張を調整する
執務場所・対人関係 席や報告先を変える、複数名で担当する体制にする

法律や指針が挙げる措置は、異動だけではありません。部署を動かさずに取れる措置も多く含まれています。

  • ● 労働安全衛生法(健康診断後の措置):就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少
  • ● 健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針:出張の制限、昼間勤務への転換
  • ● 治療と就業の両立支援指針(以下、両立支援指針):「作業の転換」を、業務内容の変更と説明

異動か療養かの二択に見えていた場面にも、中間の選択肢があります

異動を検討する場合も、部署名ではなく、業務量・着任・報告先の何が変わるかを書き出しましょう。書き出した内容を、現部署での調整案と比べてみてください。

配慮しても就業の継続が健康上難しい場合は、医師の意見を踏まえ、療養に専念する選択肢も示します。

支援プランは「措置・担当・見直し」をセットで決める

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※AI生成画像

本人と医師の意見を踏まえ、例えば次のように決めます。

  • ● 措置:当面は対外折衝を担当から外す
  • ● 担当:直属の上司が業務量を調整する
  • ● 見直し:次回面談で症状と業務負荷を確認する

これは記載例です。適切な措置や期間は個別に決めてください。

両立支援指針も、支援ブランドに書く事項つぃて、措置の具体的な内容と、実施時期・期間を挙げています。

見直し日は、措置の自動終了日ではありません。見直しの時点で、本人の状態と医師の意見を踏まえ、継続・変更・解除のいずれかを選びます。

異動する場合も同じです。配置できたことを区切りにせず、誰が、いつ、何を確認するのかまで決めてください。確認するのは、予定した業務調整が実際に行われているか、困って時に相談できる相手がいるか、の2点です。

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」

参考:厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」

参考:厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」

復職と同時に異動してもよい?

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復職先は「まずは元の職場」が原則です。ただし、厚生労働省の職場復帰支援の手引きでは、例外も示されています。ここでいう元の職場とは、休職が始まったときの職場です。

原則と、手引きにある例外

新しい環境への適応にも時間と心理的負担がかかり、再燃・再発につながる可能性が指摘されています。

そのため、まずは慣れた職場で業務負担を軽減しながら経過を観察し、そのうえで異動を考慮した方がよい場合が多い、という考え方です。

異動を否定しているのではなく、順序を示している点が要点です。

一方で手引きは、異動等を誘因として発症したケースを例外としています。適応できていた以前の職場に戻すか、適応できそうな別の職場への異動を、積極的に考慮したほうがよい場合がある、という内容です。ほかにも、次の場面が検討の対象になります。

  • ● 職場要因と個人要因の不適合がある場合
  • ● 運転業務や高所作業など、一定の危険を伴う業務の場合
  • ● 元の職場の環境や同僚が大きく変わっている場合

「原職復帰が原則だから異動は認めない」という一律の運用は、手引きの記述と噛み合いません。

ただし、異動のあとに症状が出たという前後関係だけで、誘因は決まりません。本人・職場・主治医から発症の経緯を集めたうえで判断してください。

復職の可否は、事業者が最終的に決める

復職の可否は、医学的な意見を踏まえて、事業者が最終的に決めます。

主治医の「復職可能」は、職場で求められる業務遂行能力の回復まで意味するとは限りません。診断書には、本人や家族の希望が含まれている場合もあります。そのため手引きでは、産業医等が診断書を精査し、意見を述べることを求めています。人事は、実際の業務条件を産業医等に伝え、意見を得たうえで判断します。

業務に戻すときの働き方も、あわせて決めます。数か月休んだ社員に、すぐ発病前と同じ質と量の仕事を求めるのは無理があります。労働負荷を軽くし、段階的に戻していく配慮が必要です。段階的な戻し方を制度にする場合は、衛生委員会等で審議してルールを決めておくとよいでしょう。

「戻れるか」だけでなく、「どの業務量から戻すか」までを本人と決めて、事業者として結論を出しましょう。

出典:厚生労働省・労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

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産業医・主治医には、何を相談する?

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産業医には、異動の是非だけでなく、必要な配慮を具体的に確認します。確認するのは、次の3つです。

  • ● 就業を続けられるか
  • ● 避けるべき負荷は何か
  • ● 任せられる業務は何か

得られた医学的な意見を、人事が実施できる具体策につなげます。

相談前にそろえる4つの情報

産業医に相談する前に、次の4つをそろえておきます。

  • ● 本人の症状、困っていること、希望する配慮
  • ● 業務の内容と量、勤務時間、勤怠、上司から見た変化
  • ● 現部署と異動先で用意できる配慮、担当できる業務
  • ● 措置の担当者、開始時期、次に状態を確認する時期

健康診断や面接指導といった法定の場面でなくても、産業医に意見を求められます。法令上、産業医の職務には健康管理や健康相談も含まれるためです。

産業医が健康管理等に必要と認めて業務に関する情報を求めた場合、事業者には提供する義務があります。

主治医への照会と、健康情報の扱い

主治医へ照会するときは、目的を本人に説明し、同意を得てから行います。

照会の際は、職場で必要とされる業務遂行能力の内容や、社内の勤務制度等を先に伝えます。手引きも、そうした情報を伝えたうえで意見書を依頼することが望ましいとしています。

健康情報は、次の手順で扱います。

  • 1. 取扱担当者と共有範囲を先に決める
  • 2. 原則として本人の同意を得る
  • 3. 支援に必要な範囲で共有する

上司や配属先に、診断書や詳しい症状をそのまま広く配らないでください。

産業医がいない事業場でも、人事だけで抱え込まない

産業医がいないことを理由に、人事だけで医学的な判断を抱え込まないでください。

産業医の選任義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。50人未満の事業場にも、医師等による健康管理等の努力義務があります。産業医がいない場合は、主治医との連携や、地域産業保健センター等の活用を検討します。

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」

参考:厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」

個別の対応だけで終わらせないために、何ができるか

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ここまでは、診断書を受け取ったあとの個別対応を扱いました。同じ相談が繰り返される職場では、個別対応に加えて、次の2つの方向から手を打ちます。

  • ● 時期をさかのぼった支援:不調になる前や休職中にも、相談できる先を用意する
  • ● 時期をさかのぼった支援:部署そのものの負荷を把握し、配置や業務分担を見直す

時期ごとの相談先の例は、次の表のとおりです。

時期 社内で相談できる相手 社外の資源
不調になる前 ・保健師
・衛生管理者
・人事労務
・キャリアコンサルタント
・事業場外の相談窓口
診断書が出たあと ・産業医
・保健師
・主治医
休職中から復職前 ・産業医
・人事労務
・主治医
・心理職
・地域の医療機関・保険期間

表は相談先の例であり、時期を限定するものではありません。産業医・保健師・心理職などには、診断前や休職中も、それぞれの役割と利用体制に応じて相談できます。

不調になる前は、保健師やキャリアコンサルタントに相談できる

不調になる前の段階では、保健師が社内で相談しやすい相手になります。健康診断の結果、健康の保持に特に努める必要がある社員には、医師または保健師による保健指導を行うよう、事業者に努力義務があるためです。診断書が出る前に、本人の変化に気づける機会になります。

産業医に相談するほどではないと本人が感じる段階でも、話せる相手を用意しておくことに意味があります。労働者の心の健康の保持増進のための指針(以下、メンタルヘルス指針)でも、保健師と心理職は相談の担い手に位置づけられています。

仕事の進め方やキャリアの見通しが負荷になっている場合は、キャリアコンサルティングも選択肢です。

職業能力開発促進法も、労働者の求めに応じてキャリアコンサルティングの機会を確保し、キャリアコンサルタントを有効に活用するよう、事業主に求めています。

休職中は、本人の希望に応じて社外の相談先も選択肢になる

休職中は、本人の希望に応じて、心理職や事業場外の相談窓口といった社外の相談先も案内できます。休職中は本人と会社の接点が限られ、相談相手が主治医だけになりがちです。

メンタルヘルス指針も、労働者が事業場内での相談事を望まない場合にも、事業場外資源を活用することが効果的だとしています。

必要な時に速やかにつながれるよう、日頃から相談先を整理しておきましょう。メンタルヘルス指針も、事業場外の医療機関や地域保健機関へ速やかに紹介できるネットワークを、日頃から作っておくことを求めています。休職後も、本人の意向に応じて相談先を検討できます。

部署には、研修とストレスチェックの集団分析で手を入れる

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本人への配慮と並行して、部署そのものにも働きかけましょう。手段は、管理監督者への研修と、ストレスチェックの集団分析です。

管理監督者への研修は、職場の風通しをよくする手段として実施できます。メンタルヘルス指針は、4つのケアの一つに「ラインによるケア」を置いています。管理監督者が職場環境等の改善と労働者への相談対応を行い、事業者が管理監督者に教育研修と情報提供を行う、という位置づけです。

部署単位の負荷を数字で掴みたい場合は、ストレスチェックの集団分析を使います。法令では、次の2つが事業者の努力義務とされています。

  • ● 検査結果を部署ごとの集団で集計・分析すること
  • ● 分析結果を勘案し、必要と認めるときは、集団の心理的な負担を軽減する適切な措置を講じること

集団分析は、特定の個人が識別されない単位・方法で行います。

異動の相談が特定の部署に集中しているなら、個別対応を続けながら、部署全体の配置や業務分担の見直しも検討します。

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」

参考:e-Gov法令検索「職業能力開発促進法」

参考:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

もう一歩詳しく:会社が外せない法的な点

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ここまでの実務を、根拠の面から確認します。社内で説明を求められたときに使える部分です。

診断書の希望と、安全配慮義務・両立支援の努力義務

主治医の記載は医学的な意見です。記載だけで、希望部署への異動が決まるわけではありません。一方で、会社には配慮を検討する義務があります。根拠は2つです。

1つ目は、労働契約法第5条の安全配慮義務です。使用者は、労働者が生命や身体等の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をするものとされています。医師の意見を受け取ったあと、何も検討せずに従前どおり就業させると、安全への配慮を欠いた状態と評価されるおそれがあります。

2つ目は、労働施策総合推進法第27条の3の努力義務です。2026年4月1日から、治療と就業の両立支援に必要な体制整備等が、事業主の努力義務になりました。ただし、希望する異動を一律に義務づける規定ではありません。

両立支援指針は、措置を事業主が一方的に判断しないよう求めています。そのうえで、疾病にかかったことだけで安易に就業を禁止せず、可能な限り配置転換や作業時間の短縮などで、就業の機会を失わせないよう留意することを示しています。

配置転換は、就業の機会を失わせないための措置として名指しされています。「異動させないなら療養」という二択で処理する運用は、指針が示す方向とは異なります。なお指針の対象は反復・継続した治療が必要で就業の継続に配慮を要する疾病であり、適応障害という診断名だけで対象が決まるわけではありません。

参考:e-Gov法令検索「労働契約法」

参考:e-Gov法令検索「労働施策総合推進法」

参考:厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」

異動を命じる権限と、命令の相当性

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異動を命じる前に、まず労働契約や就業規則、職種・業務の限定合意を確認します。

判例では、次の3件が参考になります。ただし、事案も論点も異なるため、そのまま一律の結論に置き換えないでください。

判例①:滋賀県社会福祉協議会事件

職種等の限定合意がある場合、本人の個別的な同意なしに、合意に反する配置転換を」命じる権限はないとした判決です。

ただし、限定の範囲内での配置換えまで否定したものではありません。

第一審では、書面による職種限定合意はないものの、採用の経緯や長年の勤務実態などから、黙示の職種限定合意が認められました。

判例②:東亜ペイント事件

転勤命令が権利の濫用になる場合の枠組みを示した判決です。具体的な枠組みは以下のとおりです。

  • ● 業務上の必要性がない場合
  • ● 必要性があっても、不当な動機・目的による場合
  • ● 通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合

つまり、権利の濫用といえる転勤命令かどうかは、業務所の必要性だけで決まるわけではありません。

判例③:片山組事件

職種を特定しない契約の下で、他の業務で働くと申し出た社員について、実際に配置される可能性のある業務を行えるかが問題となりました。賃金請求の判決であり、常に異動を義務づけたものではありません。

参考:京都地方裁判所判決(滋賀県社会福祉協議会事件・39頁)

参考:最高裁判所第二小法廷 令和6年4月26日判決(裁判所ウェブサイト)

参考:最高裁判所第二小法廷 昭和61年7月14日判決(裁判所ウェブサイト)

参考:最高裁判所第一小法廷 平成10年4月9日判決(裁判所ウェブサイト)

一般の診断書と、法定の意見聴取・勧告を混同しない

一般の診断書が提出されただけでは、法定の意見聴取や事後措置の対象にはなりません。医師の意見聴取と事後措置の手続きが法律で定められている主な場面は、次の3つです。

  • ● 健康診断の後
  • ● 長時間労働者への面接指導の後
  • ● ストレスチェック後の面接指導の後

たとえばストレスチェック後の面接指導は、高ストレスで医師等が必要と認めた労働者からの申出に基づいて行います。

産業医の一般的な助言と、労働安全衛生法第13条第5項に基づく勧告も別のものです。勧告には、次の対応が伴います。

  • ● 事業者による勧告の尊重
  • ● 衛生委員会等への遅滞のない報告
  • ● 勧告の内容と対応の記録、3年間の保存

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」

異動後に不調が出たら、労災ではどう見られる?

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異動の前後関係だけで、労災になるわけではありません。異動後の業務の困難さや職場の支援も含めて評価されるため、人事は異動後も負荷を確認し、必要な支援・協力を具体化しておきます。

精神障害の労災認定では、次の3つの要件を確認します。

  • ● 対象疾病を発病していること
  • ● 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • ● 業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病とは認められないこと

異動は、認定基準の心理的負荷評価表に「転勤・配置転換等があった」という項目として置かれています。負荷の強さは、異動後の業務の内容によって「弱」「中」「強」に分かれます。

「強」と評価される具体例には、過去に経験した業務と全く異なる質の業務や、経験からみて異例に思い責任への対応に、多大な労力を費やした場合などがあります

参考:心理的負荷による精神障害の認定基準(令和5年9月1日付け基発0901第2号 別添/安全衛生情報センター)

出典:厚生労働省「別表1 業務による心理的負荷評価表」

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【人事労務が知っておきたい】メンタル失調の労災認定基準について

よくある質問

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Q.異動を認めると、他の社員との公平性が崩れませんか。

A.全員に同じ措置をすることと、個別の事情を踏まえて康平に判断することは別です。

本人の希望だけで決めず、医学的な意見と、次の事実を併せて判断してください。

  • ● 負荷の中心
  • ● 就業を続けられる状態か
  • ● 異動先で何が変わるか

事実に基づく判断であれば、同じ事実がない社員とは結論が異なることを説明できます。周囲への説明では、本人の健康情報を広げすぎないよう配慮します。

Q.異動のない事後に、診断書を提出して拒否された場合はどうしますか。

A.診断書があることだけで、命令の有効・無効は決まりません。

まず、職種や勤務地を限定する合意がないかを確認します。そのうえで、次の3点を検討します。

  • ● 業務上の必要性
  • ● 不当な動機・目的の有無
  • ● 本人が受ける不利益の程度

あわせて、診断書が示す健康状態について、医学的な意見を得てください。健康状態は、不利益の程度を判断する材料の一つになります。

Q.小規模な事業場で異動先がない場合はどうしますか。

A.部署を動かさない調整から検討します。たとえば、次の調整が可能です。

  • ● 担当業務の変更
  • ● 労働時間の短縮
  • ● 深夜業の回数の減少
  • ● 報告先の変更

調整しても就業の継続が健康上難しいと医学的に判断される場合は、療養に専念する選択肢を示します。異動先がないことだけを理由に、何も変えないまま働かせ続ける対応は避けてください。

まとめ:異動する・しないの前に、必要な配慮を具体化する

  • ● まず緊急性の確認を優先し、5つの点を順に確認:相談の入口、負荷の中心、異動先で何が変わるか、就業を続けられる状態か、いつ誰が見直すか
  • ● 診断書だけで配属は決まらないが、配慮の検討は必要:根拠は、労働契約法第5条の安全配慮義務と、2026年4月施行の労働施策総合推進法第27条の3の努力義務です
  • ● 異動以外の調整も選択肢の一つ:措置・担当・見直しをセットで決め、見直し日を自動終了日にしません
  • ● 復職先は「まず元の職場」が原則:ただし手引きは、異動等を誘因として発症したケースをはじめ、いくつかの例外を示しています
  • ● 限定合意に反する配置転換は、個別の同意なしに命じられない:命令権がある場合も、必要性・動機・不利益の3点を確認します
  • ● 労災では異動による心理的負荷も評価:業務や責任の変化に加えて、対応に要した労力と支援体制まで見られます
  • ● 不調になる前の相談先と、部署への働きかけも実施:保健師や心理職への相談経路

判断が難しく感じられるのは、医学的な見立てと人事の判断が混ざったまま検討しているためです。順序を分ければ、一つひとつは答えを出せる問になります。緊急性がないと確かめたうえであれば、診断書を受け取った日にすべてを決める必要はありません。

「診断書はあるが、どの業務なら任せてよいか判断に迷う」というときは、業務情報と調整案を整理したうえで、産業医へ相談してください。

相談できる体制そのものを整えたい場合は、ワーカーズドクターズが、企業の状況に合った産業医の紹介を行っています。現在の状況を伺ったうえで、条件に合う医師の候補をご提案します。

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公開日: 2026.10.27
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